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未来に向けて。再生医療とウエルネス
M再生クリニック院長
飯塚 翠 医師
interviewer: 相馬 順子
”再生医療”、日本は世界的にみてもこの分野で大変注目を浴びている。未来の医療といわれている再生医療とはどのようなものなのか?人生100年時代をいきていなかなくてはならない私たちが避けて通れない加齢。いままでの医療はこの加齢というバイオクロックの速度をいかに遅くするか、という戦いであった。いま、再生医療は私たちの人生にどのような影響を及ぼしていくのであろうか?人間の齢は巻き戻すことができるのであろうか?
コロナ禍のウエルネス
相馬:いよいよ東京そして神奈川、埼玉、千葉に緊急事態宣言が再発令されました。コロナ禍において、いま自分や自分の大事な人の健康やそれを支える免疫力が気になっている方は多いかと思われます。コロナを防ぐために日頃からできる事はありますか?
飯塚医師:ウイルスは人体にとって異物ですから、1.「侵入を防ぐ」2.「増殖を防ぐ」3.「対抗できる免疫力をつける」の3点が重要です。まずウイルスの侵入を防ぐ為には三密をさけて、マスクを閉鎖空間では必ずする事は基本です。しかしマスクなら何でも良いというわけではありません。世界で初めてコロナ患者から培養したコロナウイルスを使用して種類の違うマスクでどれ位コロナが防げるのかを東大教授が実験した結果、布マスクでは20-40%、不織布(医療用)マスクでは50%、N95マスクでは80-90%でした。もちろん布マスクでもしないよりはウイルスを防ぐことは可能ですが、やはりマスクの種類によって性能はかなり違います。ウイルスは空気中に漂っていて呼吸によって気道を通して体内に侵入したり、人の手などによって物に付着しその物を別の誰かが触ってそのウイルスが付着した手で物を食べたり目をこするとウイルスが体内へ侵入します。気道からの侵入を防ぐのにマスクやうがいが有効ですが、手から口や目を通しての侵入を防ぐには外に出たらなるべく他人が触ったもの(ドアノブ・電車のつり革や手すり等)は触らないようにし、触った場合はなるべく早く流水や石鹸でウイルスを洗い流したり消毒液で手を消毒する事が大切です。特にウイルスは粘膜から侵入しますから、目や口を触る前には絶対に手をきれいにする必要があります。次にウイルスの増殖防ぐには、ウイルスの絶対数を減らすことが必要です。手に付着したウイルスは100万個程と言われていますが、実験データによると、手に着いたウイルスを効果的に減らすには、流水と石鹸で15秒以上手を洗うのが一番とされています。消毒液も水道が近くに無い時は良いですが、決して100%ウイルスがいなくなっているわけではないという事を認識して使用する事が大切です。ウイルスは6時間で10万倍に増えますから、流水でできる限りウイルスを流す事で増殖を防ぐことが出来ます。この様な努力をしていてもウイルスは体内へ入って増殖してきます。その時に重要な役目をするのが免疫です。免疫というのは異物が体内に侵入してきた時にそれに対抗する為に体内に備わっている防御システムで、ストレスや不規則な生活、偏食、睡眠不足、喫煙や加齢等によって低下します。しかし、逆に言えばビタミンC等栄養をとり、よく寝て、適度な運動をしてストレス解消すれば免疫力を上げる事も可能です。また科学的データで、気温が10℃位に下がり湿度が20%位に低下するとウイルスの生存率が80%位に増える事もわかっていますので、換気も大事ですが、部屋の温度を20℃以上に温め、加湿器で湿度を40-60%に保つ事も大切です。

相馬:やはり日ごろからウエルネスな生活を心がける必要があるということなのですね。
飯塚医師:そうですね。しかし、現実的には仕事が忙しかったりするとウェルネスな生活をするのが困難な事がありますね。そんな時に是非医療の力を利用して頂きたいと思います。忙しくて毎日コンビニ食で栄養が取れないような方や喫煙によりビタミンCが破壊されてしまっている方などに、約30分程度の点滴でレモン約2500個分の大量のビタミンCを体内へ供給することが可能です。当院で行っている大量のビタミンCは免疫力を上げるだけでなく、癌等の原因になる体のさびを除去する抗酸化力にも優れ、更にコラーゲンやエラスチンを増やす事で目や口などの粘膜を強化しウイルスの侵入を減らす役割もあります。また当院ではさらにビタミンCやEの約400倍の抗酸化力を持つ、αリポ酸点滴も行っております。この点滴は細胞内でエネルギーを作り出すミトコンドリアを活性化する事で代謝を上げ疲労回復やダイエット効果もあります。
相馬:ワクチン接種が他国で始まっていますが、それについてどう思われますか?
飯塚医師:まずワクチンというのは、体内に病気にならない程度の微量のウイルスを注射するか、またはウイルスが体内に侵入した時に病気の原因になるタンパク質を注射する事で体にウイルスを覚えさせ、それに対する抵抗力(免疫)をつける事です。免疫がついていれば、次に同じウイルスが侵入してきた時に体が防御する準備ができていますから、たとえウイルスが侵入してきても病気にかからなかったり、重症化しなかったりできます。ただし、これはワクチンと同じウイルスが侵入してきた場合であり、変異などしてよりパワーアップしたウイルスには無効であることが多いです。通常ワクチンの開発は標的を設定してそれに対して製剤を開発するまでに3-8年、その後少数の健康な人に投与して安全性を確かめ、次に100人程度の患者に投与し安全性や効果を検証し、最後に1000人程度の患者に投与し薬の効果、副作用、適切量や安全性を確かめるのに2-10年かかると言われています。それに対し、今回のコロナウイルスのワクチンは1年足らずで製造されていますから、当然長期的な安全性などは全く検証されないまま投与されていることになり、将来何が起こりうるかは全く未知数です。ワクチン接種に関しては、各自ベネフィットと同時にリスクもよく理解し、納得した上での接種をお願いしたいです。

再生医療は日本が誇れる世界的な最先端医療に
相馬:再生医療というのは最先端であるため、あまり理解できていないのですが、どのようなものかご説明いただいてもよろしいでしょうか?
飯塚医師:再生というのは無くなったり減ったものを再び作るという意味ですが、トカゲのしっぽを切ってもまた生えてくる様に人間の体にも再生する力があります。私達の体内には約37兆個の細胞があり、その中で毎日約300億個の細胞が死んでいると言われています。もし体内に再生能力がなければ細胞はどんどん死んでいきますが、代わりに毎日新しい細胞が作り出されることで、体の機能を維持しています。髪の毛や爪が伸びるのもまさに細胞が毎日作られているからです。再生医療の中心にいる幹細胞という言葉を耳にしたことはありますか?幹細胞の幹は木の幹と書き、幹から枝が出て葉が出て花が咲き実がなる様に、体内では幹細胞から皮膚になる皮膚細胞や肝臓になる肝細胞など色々な細胞が作られます。では幹細胞が一番多いのは人生でいつでしょう?答えはお母さんのお腹の中にいる胎児期です。ご存じのように受精卵という1つの細胞から生まれてくるまで37兆個の細胞が必要ですから、幹細胞は胎児の体内で一生懸命働きます。しかし一旦生まれてくると、新しい細胞を作る需要はぐんと減りますから、幹細胞は休眠期に入り、数もどんどん減っていきます。生まれた時に約60億個あった幹細胞も50歳位までには20分の1の3億個ほどまで減ってしまいます。赤ちゃんの時にちょっとした傷をおってもすぐに治るのに、大人になってからついた傷はなかなか治らないな、と普段の生活の中で気が付いている方もいらっしゃるかと思いますが、それは再生能力のある幹細胞が大人になると急激に減るからなのです。そこで体内の脂肪から少量の幹細胞を採取して体外で培養して数を増やし体内に点滴で戻す事で、それぞれの体に必要な部分の再生を行おうというのが幹細胞による再生治療です。
相馬:確かにそうですね。飯塚先生のところではその幹細胞を使ってどのような治療をなさっているのでしょうか?
飯塚医師:幹細胞の特徴の一つにホーミング作用があります。これは幹細胞が体の傷ついた部分からの信号をキャッチする事でそこに集中して集まり、新しい細胞を作る手助けをする働きです。また幹細胞は他の細胞へと変化する事で、必要な細胞を再生する能力があります。この様な幹細胞の特徴をいかして、当院では変形性膝関節症の関節再生治療で膝の痛みを緩和し、軟骨などの関節組織を再生する治療を行っております。その他にも幹細胞を利用したお肌のアンチエイジング治療や毛髪の再生治療も行っております。

相馬:年を取ることによって失われてきた再生能力やセルフコントロール力を取り戻す?それでは、アンチエージング美容などもできるのですか?
飯塚医師:例えば20代の人と50代の人のお肌を顕微鏡で比べてみると、皮膚幹細胞の数が年と共にかなり減っているのがわかります。皮膚に幹細胞が作り出すサイトカインや成長因子を外から注入する事で、コラーゲンやエラスチンなどお肌のハリに関わる物質を増加させ、しわやお肌の弾力を改善し若々しいお肌を手に入れることが出来ます。同じように髪の毛にも毛髪幹細胞という幹細胞が存在していますので、脱毛症で悩んでいるけれど薬を飲みたくない方に対して幹細胞が作るサイトカインや成長因子などの注射により頭皮の状態を改善させ育毛を促進させます。その他にも幹細胞の培養点滴によって、男性機能が改善したというのはよく患者さんは多いですが、女性に対しても卵巣機能が改善したり、50代でも卵胞が育った等の例もあります。この様に再生治療は化学薬品とは異なりアレルギー反応、拒絶反応、肝臓や腎臓への毒性など副作用がほとんど無く若い頃の状態へと体内を調節する助けをしてくれます。
相馬:安全性の問題はいかがなのでしょうか?
飯塚医師:再生医療は日本が誇る最先端医療とするべく、厚生労働省の力をいれている分野です。それゆえ、再生医療を行う施設や医療従事者に対して大変厳しい条件を課しており、それをクリアーしたところだけが申請書を受理していただくようになっております。わたくしどもクリニックでも大きな投資をして最新のラボラトリーを完備し、申請をクリアしております。また当院では東大医科学研究所と共同開設した倫理委員会及び当院独自の2つの倫理委員会を設置しており、行われる再生治療に対する感染面の安全性や倫理的な問題など様々な安全性を検証しております。再生治療は基本的に自分自身の体にある物から作っているので、感染症などの心配は少ないです。1956年に初めての骨髄幹細胞移植が行われて以来、現段階までで幹細胞治療によって癌になったというような報告はされておりませんので、その点も安心して治療を受けて頂くことができます。またiPSやES細胞と異なり、幹細胞が癌化した例は今まで1例も報告されていませんので、その点も安心して治療して頂けます。最近では幹細胞の特徴を理解され、興味はあるけれど、もう少し症例数が多くなって安全性が確認されるまで待ちたいという方も多くいらっしゃり、当院ではバンキングを始めました。幹細胞バンキングとは、1日ずつ年を取っていく細胞を、その時点で一番若い時に採取し冷凍保存する事で、ベストな状態の細胞を将来の治療為にとっておけるシステムです。
相馬:どんどん新しい技術が生み出されているなかで、再生医療はやはり日本が誇れる世界的な最先端医療になってほしいです。そして、今回のコロナ禍でもあきらかになっているように、日ごろからのウエルネスなライフスタイルがやはり最先端医療と両輪になって私たちの健康を守っていることにも気が付かされました。
M再生クリニックではSpa Vitaチケットが利用できます。
飯塚 翠(めしつか みどり)
2008年北京大学医学部卒業後、ハーバードマサチューセッツ総合病院、中日友好病院、北京医学部第3病院、東京大学医学部付属病院、東京女子医科大学病院などを経て大手美容外科に入職しVIP担当の医師として5000例以上のアンチエイジング治療を行った後、M再生クリニック院長に就任し現在に至る。M再生クリニックはラボも併設しており、最先端の再生治療を東京大学医科学研究所と正式に提携しながら行っている。日本と中国のダブルライセンスをいかして、海外講演なども多く行っており、日本国内だけでなく海外からも多くのVIP患者が訪れる。また同グループ内には訪問診療を中心としたアイクリニックもあり、コロナ渦の中抗体検査やPCR検査を含めた治療も行っている。

相馬 順子(そうま よりこ)
株式会社Conceptasia (www.conceptasia.jp)代表取締役。Global Wellness Summitボードメンバー。Boston Consulting Group香港オフィス勤務ののち、ウエルネス事業に対するアドバイス、投資を行う会社を設立。著名ブランドのスパを国内外に次々とオープニングさせてきた。国立大学法人琉球大学観光産業科学部「スパマネジメント論」講座 非常勤講師。