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世界が注目する日本の温泉
日本未病学会所属
スパ・ウェルネス産業研究家
丸山 智規 氏
ウエルネス業界の3名のオピニオンリーダーが語る日本のウエルネスマーケットの未来。第2回は丸山智規氏。昨年の日本スパ振興協会総会時の講演「メガトレンドはウエルネス~拡大するグローバルウエルネスマーケット~」の抄録をご紹介いたします。
日本スパ振興協会理事長のメッセージ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によりお亡くなりになった方々に謹んでお悔み申し上げますとともに、罹患された方々、不安で辛い日々を過ごされているすべての皆様にお見舞い申し上げます。
さて、昨年の当協会総会時にご講演頂いた抄録をご紹介させていただきます。それは、ウエルネス業界の3名のオピニオンリーダーから、様々なデータやご経験談を交えながらご説明いただいたもので、グローバルウエルネスサミットを通した世界の視点で日本を注目すると、日本ならではのウエルネスに気づかされ、こんな素晴らしい文化やウエルネスの慣習、地域を「J-wellness」と世界に発信していこうというような、大変興味深い内容です。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、人々に見えないウィルスの脅威への不安が広がっており、医療に携わる方々のご尽力には尊敬と感謝の意を表します。このような状況で、今、自分たちにもできること、自分自身で健康でいるための行動をすべきだと思っています。
最近、「自己免疫」に改めて注目が集まっているようですが、免疫力を高めるには適度な運動、バランスの良い食事、リラックス(ストレス発散)、体を温めるなどの生活習慣が重要です。それはまさに、この講演で述べている日本のウェルネスであると思っています。
この抄録が皆さんに気づきを与え、行動に繋がってもらえたら幸いです。今は家庭内でもできる、適度な運動や、栄養管理、入浴など自宅でのウエルネスな生活を心がけていただき、新型コロナウイルスが収束した際は、ウエルネスライフの実践の場としてスパを活用していただけたらと思います。
特定非営利活動法人 日本スパ振興協会
理事長 岡田 友悟

GWIとの関わり
グローバル・ウエルネス・サミット(GWS)は、国際的に活躍するスパ・ウェルネス産業リーダー達による情報・意見交換やネットワークの構築の場で、ウエルネス業界のダボス会議とも呼ばれています。GWSは世界のウェルネス産業の最先端トレンドを掴める注目度の高いサミットですが、その母体となる非営利研究組織がグローバル・ウェルネス・インスティチュート(GWI)です。GWIは各国のウェルネス関連市場規模調査等を通してGWS参加者にとって大変有益なデータを提供しており、私も日本のスパ関連市場等の調査に協力して参りました。
また、GWSではウェルネスに関連する各分野・各業界の関係者達が討議し合う産業別のフォーラムが開催されています。ホテルスパやデスティネーションスパ、ハイドロサーマル、温泉等といった従前のスパ関連産業の他、投資や不動産、コンサルティング、教育、フィットネス、メンタルウェルネス等、多岐にわたるウェルネス周辺分野のイニシアチブ・グループが存在しますが、これらを統括するのもGWIです。この中で私は、各国の温泉リゾート等の経営者や温泉研究者等のオピニオンリーダーで構成されるホットスプリングス・イニシアチブの他、二つのイニシアティブの日本代表メンバーをさせて頂いています。
2013年にGWS内で開催されたグローバル・ホットスプリングス・フォーラムでは、(株)星野リゾートの星野佳路代表と共に登壇させて頂き、各国の代表者達と世界の温泉へのニーズや特徴について討議しました。日本は温泉大国ではありますが、世界各国の温泉にも我々が知らなかった魅力が沢山あります。例えば欧州の温泉は健康志向が強く、体調を整え、癒すことを主目的としているものが多いです。一方、インドは精神志向。スピリチュアリティを感じ取りながら入るような温泉が多い等、各国の温泉には夫々特徴があり、学ぶところが多いです。

世界からみた日本の温泉
さて、「なぜ、日本の温泉が世界から注目を浴びるのか?」と言いますと、心身の健康衛生の維持・改善のために人類が温泉利用を始め、所謂「温泉文化の発祥」となった国が、実はローマと日本だったという歴史上の事実を世界の方々は認識しており、日本の温泉文化を日本人よりも遥かに知りたがっているからです。
2019年4月15日の日経新聞一面でも紹介されましたが、全世界における約34,000の温泉施設のうち、実に約6割の2万近くを日本の施設が占めています。第2位の中国ですら3,000施設ぐらいですから、日本の温泉施設数は他国に比して圧倒的に多いのです。これは、水着を着用して入る大型温泉プールに入浴する様な形式の温泉施設が海外には多く、一方、日本の場合は、プライバシーを意識した小さな造りの旅館であっても温泉設備を有している場合が多く、全国津々浦々に数多くの温泉旅館が点在していることや、近年多様なスタイルの日帰り温浴施設が急増してきたこと等が起因しています。
日本の温泉文化の歴史的背景や他国との産業構造の違いが、時には“ガラパゴス”等と言われてしまうかもしれないですが、ここにこそ温泉の多様性や楽しみ方の深さがあり、日本の温泉が海外からとても注目される一因になっていると思います。
ちなみに、この新聞記事の情報源となっているのもGWI調べの資料です。世界の温泉市場規模は2022年に770億ドルにまで急成長する見通しとなっており、その5割を占めるアジアが牽引役となっていることも書かれています。「日本式温泉アジアを癒す」と題した同記事では、訪日旅行で温泉の魅力を知った外国人達の入浴需要が世界各地で拡大しており、例えば、極楽湯ホールディングスの中国での展開や、年間数十の温泉開発プロジェクトを手掛ける重慶の箱根温泉産業発展集団、台湾の温泉地に高級温泉旅館をオープンさせた星野リゾート、台北市が山形県と提携した福泰飯店集團等がこの需要を捉えた展開を試みていることを伝えています。この状況の下、台湾市では2015年からの5年間で観光誘致開発支援補助金が125社もの温泉事業者に拠出されています。その他、タイやシンガポール等のアジア各国にも、日本式の温浴施設が続々と進出しています。

World Bathing Day
前述のホットスプリングス・イニシアチブでは、世界の温泉ファンの輪を拡げる活動も推進しています。そのうちの一つが「World Bathing Day」。毎年6月22日(夏至の日前後)に実施されます。世界各地の温泉施設からの日の出や日の入の写真をインスタグラムにリアルタイムで投稿してもらうことで、地球を周る太陽に照らされる世界各地の温泉地の景勝美を臨場感をもって楽しむと共に、各地の温泉の様式や文化の違いを学び、自然環境が齎す温泉の恩恵を感じる一日を全世界で共有するという試みです。
昨年は、日本の各温泉施設からのインスタグラム投稿が世界中で最も活気があったと高く評価されました。海外からの投稿では、豪華で大規模な温泉施設の写真が多いですが、日本からの投稿には旅館等の和風建築と温泉地の自然の景勝が一体となった風情ある写真が多く、好評を得ています。

グローバル・サーマル・シンクタンク
2017年からは、GWSだけでは語り尽くせない温泉の魅力や、今後の温泉業界のあり姿をより深く討議するグローバル・サーマル・シンクタンク(G3T)という国際会議を、毎年のGWSプレ/ポスト・サミット・ツアーとしてGWS開催地付近の温泉地にて開催しています。
2018年にはイタリアのグロッタ・ジュスティという温泉リゾートで開催されました。温泉が湧き出る洞窟の中で天然のスチームサウナを愉しんだり、オーナーのご好意で同施設内にある温泉蒸気による喘息治療施設や温泉泥の施術室等も見学させて頂きました。2019年には愈々日本も候補地に挙げられており、本邦開催に向け鋭意企画中です。
丸山 智規(まるやま とものり)
’04海外スパ業界調査研究事業への参画を契機に、政府委託の各種ウェルネス/スパ産業関連調査・研究事業に従事し、スパ産業における市場やサービス基準、関連法規、資格制度等に関するグローバルな調査に従事。06年から3年に亘り経産省主催の業界検討委員会を中心とした国内外スパ・サービス産業調査研究事業のリーダー等を務める。09年より日本未病学会所属。国立大学法人琉球大学観光産業科学部「スパマネジメント論」講座 非常勤講師。

岡田 友悟(おかだ ともあき)
特定非営利活動法人 日本スパ振興協会 理事長╱一般社団法人 スパ&ウエルネスウィーク 代表理事╱公益社団法人 日本サウナ・スパ協会 諮問委員╱沖縄県エステティック・スパ協同組合 顧問╱一般財団法人 国際指圧普及協会 理事╱国立大学法人 琉球大学 非常勤講師。スパ施設に化粧品・トイレタリー製品の販売を行う商社にて、多くの施設の立ち上げにかかわる。幅広くスパ、温泉、温浴、サウナに関する活動を行う。