Spa & Wellness Insight
ジョン・スチュワート 氏

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私に与えられたミッション

Kamalaya リゾート 代表取締役
ジョン・スチュワート 氏

interviewer: 相馬 順子

数々のウエルネスリゾートの賞を総なめにしている今一番ホットなウエルネス・リゾート「Kamalaya」、タイ・コサムイにあるカマラヤを創ったのは、カナダ人でありながら、ヒマラヤ仏教に魅せられて僧侶になったジョン・スチュワート氏。

最も居心地が良い状態を提供したかった

 Kamalayaは、他のリゾートのようにゴージャスさを競うのではなく、本当に天然の素材を使って造り上げたリゾートなんです。きらびやかなリゾートではないのですが、ひとつひとつはよく磨かれ、天然の素材でしか醸し出せない雰囲気を作っているのです。このリゾートにいらっしゃるお客様の60%は一人でいらっしゃいます。多くは企業のCEOであったり、大使であったり、弁護士であったり、重責を担い日々情報とストレスの波と戦っているような方たちです。ヨーロッパの方が多いのですが、彼らのロンドンやアムステルダムの家は、豪華なものでしょうが、彼らが週末にすごすマウンテンハウスは実は、居心地がよい質素な山小屋であったりします。新聞なんて床に落ちていたりして(笑)。こういうのが彼らにとっては居心地がよいものなのです。Kamalayaは彼らにとって最も居心地が良い状態を提供したかった。なので、きらびやかにするのではなく、天然の素材できちんと清潔に、そして自然と調和するような建物を建てたのです。

 訪れる方はヨーロピアンが多いのですが、アジアに駐在されている方や、アメリカやイギリスで高度な教育を受けたアジアのリーダーも多いですね。ここにいらっしゃる方は、社会で重責を負っている方が多いのです。香港からきた、あちらの女性は、「自分の誕生日にご褒美としてこの旅行を企画した」と言っていました。ここは、ご夫婦や、友人たちといらっしゃる方もいますが、半数以上のお客さまは、ここでの時間を自分のために使う目的でいらしているのです。デトックスやメンタルヘルスなどのコースに入ったり、毎日ある様々なプログラムに入ったり、スパトリートメント三昧を楽しんだり。この自然の中にいるだけで、森林浴の効果が十分享受できますし、食事はすべてシェフが自然の素材だけを使ったヘルシーなものばかり。本当は一週間以上来ていただきたいと思って作ったプログラムが多いのです。日本の方はどうしても3日-4日くらいの日程でいらしているようですが、本当はもう少し長く滞在してほしいと思っています。

西洋と東洋、医学と精神を融合

 ヒマラヤで僧侶をしていた私は、16年間、インドにこもり、石をひとつづつ積み上げて寺院や村を尊師とつくりました。洞穴での修行も経験しました。1年間洞穴で生活をするのです。そのような修行をしているうちに、プリンストン大学の学生であった今の妻と出会います。カリナはTCM(伝統的な中国漢方)を学びにヒマラヤにきていました。その後、アメリカに戻り、医学部に進学し、東洋医学を専門とする医師になって戻ってきたのですが、西洋医学の基礎と東洋の医学や精神的なものを組み合わせたような施設が、これからのリーダーたちには必要なのではないか、と話し合ったのです。この世の中はいろいろと問題を抱えている人が多いのですが、特にリーダーたちがストレスをためすぎて、判断力を失うという事態は、非常にクリティカルです。私は、カリナと恋に落ち、その後結婚をするのですが、Kamalayaはカリナとそのような気持ちで創りました。最初の4年は、医者と僧侶のコンビでビジネスをするわけですから、なかなかうまくいかなった。でも、その後、評判が評判をよび、いまでは400人近い従業員を抱え、そのうち100名はウエルネスセンターの医師や看護師、そしてセラピストです。コテージと部屋を合わせて76室、一人でいらっしゃる方も多いのですが、11月から5月初旬までは、かなり予約で部屋はふさがってしまう状態です。

リハビリセンターや断食道場ではありません

 このリゾートを始めるための資金は、実はヒマラヤ時代の培った文化や美術のノウハウやコネクションが助けてくれたところがあります。メトロポリタン美術館に希少な仏像やモニュメントを仲介しました。その資金をもって、このKamalayaリゾートを立ち上げたのですが、従業員にも手厚く支払いをし、お客様にも楽しんでいただけるような無料のプログラムも多くそろえました。そうすると大抵ビジネスとしてやっていけているの?と思われがちなのですが、非常にビジネスとしてもうまくいっているのです。

 ここはリハビリセンターでもないし、断食道場でもありません。人の細胞がかわるのに8週間はかかりますので、ここに滞在している間に、体重が減りましたよ、とかウエストが細くなりましたよ、というようなことはしません。最初のセッションで看護師と担当のメデイカルコーデイネーターがいろいろとサジェスチョンはしますが、最後にまた体重をはかるようなことはしないのです。ここで身に着けた身体によいことを、国に戻っても一つでも二つでも実践するということが大事なのです。

幸せを分け与えることができる幸福感

 自然素材の食事をし、あまりデジタル機器にふれず、などというのは普段の生活の中ではなかなかできないことも多いのですが、 メディテーションを朝ほんの少しするだけで、一日の出だしがとても素晴らしいものになったりすることもあります。メディテーションの時間は最低5分とか、いろいろという人がいるかもしれませんが、1分だけだっていいのです。要するに今の社会、あまりにも形が作られすぎてしまい、そのような型に押し込めようというようなハウツー本なども出ていたりしますが、しょせん人間が考えたこと。ここでみんなが目覚めるのは、ひとりひとり違くてよいのだ、ということや、満たされた気持ちになったときに、他の人にも同じように手を差し伸べることができるということなのです。Kamalayaの滞在は他のリゾートホテルと比べて決して安いものではないと思います。でも、リーダーとなるような人たちがここで滞在をしてくれることによって、自分を制すること、自分が幸せになること、そしてその幸せを他の人に分け与えることができる、という幸福感を体験してもらいたいと思っているのです。お金だけがほしいのであれば、ヒマラヤの骨董や芸術の目利きができる私は、他の道があったかと思います。でも、16歳でヒマラヤ仏教に魅せられ、22歳から僧侶となったのも何か私がやるべきことがあって導かれたのかもしれません。Kamalayaで私に与えられたミッションを粛々と行いながらも、いつかこのようなメソッドを他の国でも行うことができたら、もっと広がりができるのではないかと思っています。

John Stewart(ジョン・スチュワート)

Kamalaya リゾート(タイ・コサムイ)ファウンダー及び代表取締役。カナダ人。16歳の時に、バンクーバーで偶然知り合った、ヒマラヤ仏教の尊師、彼の教えや哲学に惹かれ、22歳になると同時にヒマラヤに移り、僧侶として厳しい修行を積みます。16年間、尊師とともに修行をし、石をひとつづつ積み上げて、寺院や村を造っていった。その後、ネパールを経て、タイに移り住み、カマラヤ・コサムイを開業。今年で14年目となるカマラヤには、世界の富裕層が訪れる聖地に。

相馬 順子

相馬 順子(そうま よりこ)

株式会社 Conceptasia (www.conceptasia.jp)代表取締役。Global Wellness Summitボードメンバー。Boston Consulting Group香港オフィス勤務ののち、ウエルネス事業に対するアドバイス、投資を行う会社を設立。著名ブランドのスパを国内外に次々とオープニングさせてきた。